「バズれば勝てる」ではない。選挙SNSに必要なもの。
選挙とSNSをめぐるルールが、大きく変わろうとしている。
5月14日、与野党は選挙時のSNS対策について、今国会中の法改正を目指すことで合意した。生成AIによって作られた画像や動画への表示を求めることや、SNS事業者に選挙への悪影響を軽減するための対応を求めることなどが検討されている。一方で、選挙運動用の電子メールについては規制を緩和する方向だ。
背景にあるのは、SNSが選挙に与える影響の大きさである。かつてインターネットは、選挙活動における新しい広報手段の一つだった。それが今では、候補者を知るきっかけになり、政策を比較する場所になり、場合によっては投票先を決める材料にもなっている。選挙カーが近所を通らなくても、駅前の演説に出会わなくても、スマートフォンを開けば候補者の動画を見ることができる。候補者本人だけでなく、支持者や第三者による投稿も次々に流れてくる。それだけSNSが選挙にとって重要な場所になったからこそ、ルールをどう整えるのかという議論も避けられなくなった。
特に生成AIの進歩は、この問題を一段と難しくしている。現在は、実際には存在しない写真や映像を短時間で作ることができ、本人が話していない内容をあたかも本人が話しているかのように見せることも技術的には可能になっている。選挙では、短期間に大量の情報が飛び交う。有権者が一つひとつの情報について、誰が作ったのか、本物なのか、正確なのかを確認することは容易ではない。だからこそ、一定のルールを設けることには意味がある。
しかし、今回の議論を「SNSが規制される」という話だけで捉えるのは少し違うように思う。むしろ、SNSが選挙に欠かせない存在になったからこそ、次の段階に入ったと考えるべきではないだろうか。これまでは、「政治家もSNSをやった方がいい」と言われてきた。これから問われるのは、その先である。何を発信するのか。誰に届けるのか。どの媒体を使うのか。そして、その情報を見た人から信頼してもらえるのか。アカウントを持っているだけでは、ほとんど意味がない。
毎日の活動写真を載せ続けるだけでも十分ではないし、選挙が近づいてから急にショート動画を大量に投稿すれば支持が広がるほど単純でもない。SNSが一般化したことで、政治家同士の発信量は以前よりも増えた。その結果、有権者から見れば「発信している政治家」であること自体は、珍しいものではなくなりつつある。そこで差になるのが、発信の中身だ。
例えば、同じ街頭演説でも、演説している姿を撮影して投稿するだけなのか、その日に何を訴え、なぜその問題に取り組んでいるのかまで分かりやすく伝えるのかでは、受け取られ方が違う。議会質問についても、議場の動画をそのまま掲載するだけでは、もともと政治に関心のある人にしか届きにくい。論点を短く整理し、日常生活との関係を説明すれば、これまで政治に関心がなかった人にも届く可能性が出てくる。
これは単なるテクニックの違いではない。政治家が「自分が発信したいこと」を発信するのか、「相手に伝わること」まで考えて発信するのかという違いである。SNSでは再生回数や「いいね」の数が目につくため、どうしても数字を追いかけたくなる。もちろん、多くの人に見てもらうことは大切だ。
一方で、選挙で最後に必要なのは再生回数ではなく、一票である。100万回再生されても、その政治家が何者なのかが伝わらなければ選挙には結びつかないこともある。反対に、見る人の数はそれほど多くなくても、地域の有権者に継続して届き、政策や人柄への理解が深まっていけば、大きな意味を持つ。政治家にとってSNSは、単なる広告媒体ではない。有権者と日常的に接点を持ち、少しずつ自分を知ってもらう場所でもある。その意味では、SNS上の政治活動もリアルな政治活動とそれほど変わらない。駅に一度立っただけで信頼関係ができるわけではないように、一度バズっただけで支持者が生まれるわけでもない。結局のところ、必要なのは積み重ねである。
今回、選挙時のSNS利用をめぐって本格的なルール整備が議論され始めたことは、ネット選挙が新しいものではなく、社会のインフラの一部になったことの表れとも言える。だからこそ、これからの政治家にはSNSを「やるか、やらないか」ではなく、「どう使うか」が問われる。生成AIを含め、使える技術はこれからも増えていくだろう。表現方法も、プラットフォームも変わっていく。それでも、最後に有権者が見ているのは、その情報の向こう側にいる人である。便利な技術を使いながらも、自分の言葉で伝える。目立つことだけを目的にせず、信頼を積み重ねる。そのうえで、新しい表現や届け方にも挑戦していく。
選挙SNSが当たり前になった今だからこそ、発信の「量」ではなく「質」が、これまで以上に問われる時代になっていくのではないだろうか。
高野祐大





