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横浜市長選は「ネット選挙」になる

8月28日
読了時間: 4分

横浜市の山中竹春市長が、職員へのパワーハラスメント問題の責任を取り、辞職する意向を表明した。2025年8月の市長選で再選されてから、まだ約1年。市議会主要会派から辞職を求められる中での決断となった。山中氏は次の市長選への立候補について「全くの未定」としている。辞職が正式に決まれば、市長選は選挙管理委員会への通知の翌日から50日以内に行われる。現時点では10月11日または18日の投開票を軸に調整されていると報じられており、横浜では突然の選挙戦が始まることになる。そして今回の市長選は、これまで以上に「ネット選挙」の色彩が強いものになるのではないだろうか。


最大の理由は、準備期間の短さにある。通常の選挙であれば、候補者は数カ月、場合によっては数年をかけて準備を進める。地域を回り、後援会を組織し、ポスターを掲示し、駅頭や街頭活動を重ねながら、少しずつ名前と顔を浸透させていく。しかし、突然行われることになった選挙では、その時間がない。しかも横浜市は人口約377万人を抱える巨大都市である。市内全域を短期間で歩き切り、一人ひとりの有権者に直接名前を伝えることは現実的ではない。


そこで、インターネットの重要性が一気に高まる。候補者が出馬を表明すれば、その日のうちに名前が検索される。どんな経歴なのか、過去に何を発言してきたのか、どのような政策を掲げているのか。SNS、YouTube、ニュース記事、ホームページなどを通じて、有権者は短期間のうちに候補者を比較することになる。言い換えれば、今回の市長選では「街で何回会ったか」だけでなく、「スマートフォンの中で何回見たか」が候補者の認知を大きく左右する。


特に横浜のような大都市では、その傾向は強い。自治体の規模が小さければ、候補者本人が地域をくまなく回り、直接有権者と接触することもできる。しかし、18区を抱える横浜市では、リアルな活動だけで全市的な認知を獲得するのは難しい。一度の街頭演説で接触できる人数には限界があるが、その演説を短い動画にしてSNSへ投稿すれば、数万人に届く可能性がある。記者会見も、その場にいる記者だけに向けたものではない。切り抜かれ、共有され、数時間後には多くの有権者がスマートフォンで見ることになる。今回の選挙では、候補者の出馬会見からすでに選挙戦が始まっていると考えた方がいい。誰が最初に出馬を表明するのか。そのとき、どんな言葉を使うのか。何を争点として提示するのか。そして、その映像がSNS上でどのように広がるのか。短期決戦だからこそ、最初につくられた印象が、その後の選挙戦に大きく影響する可能性がある。


一方で、「ネット選挙」という言葉から、単にSNSの投稿回数を増やせばいいと考えるのは危険だ。横浜市長選で求められるのは、市全体に対して候補者の存在を知らせる「認知」と、市民生活に関わる政策を理解してもらう「説明」の両方である。ショート動画は認知を広げることには向いている。しかし、市政の課題を数十秒ですべて説明することはできない。そこで重要になるのが、情報の入口と出口を設計することである。


SNSの短い動画で候補者を知り、興味を持った人が長いインタビューを見る。さらに詳しく知りたい人がホームページで政策を読む。一つの媒体ですべてを伝えようとするのではなく、それぞれの媒体に役割を持たせる必要がある。

もちろん、ネット上の選挙には難しさもある。切り抜き動画によって発言の一部分だけが広がることもあるし、事実関係が不明確な情報が急速に拡散される可能性もある。候補者本人が発信した情報より、第三者が投稿した動画の方が大きな影響力を持つこともある。だからこそ、候補者自身が一次情報を積極的に出しておくことが重要になる。出馬会見を全文公開する。政策を文章で示す。質問に答える。誤った情報が流れれば、速やかに訂正する。発信しないという選択をしても、ネット上で候補者についての情報が流れなくなるわけではない。本人が何も語らなければ、その空白を第三者の発信が埋めるだけである。今回の横浜市長選では、政治家にとってのネット活用の巧拙が、これまで以上にはっきり表れるだろう。


ただし、最後に忘れてはならないのは、ネットとリアルは対立するものではないということだ。街頭に立つ。地域を回る。市民と直接話す。こうした活動の価値は変わらない。違うのは、その一つひとつの活動が、その場だけで終わらなくなったことである。街頭演説は動画になる。地域で聞いた声は政策として発信できる。市民との対話も、伝え方次第では多くの人と共有できる。リアルな活動をネットによって増幅する。今回のような短期決戦では、この発想が特に重要になる。


山中市長の辞職によって、横浜市民はわずかな期間で次の市長を選ぶことになる。候補者にとっても準備できる時間は限られている。だからこそ、この選挙では「誰が一番多く街を回ったか」だけではなく、「限られた時間の中で、誰が最も多くの有権者に自分を知ってもらい、自分の言葉を届けられたか」が問われることになるだろう。人口377万人の大都市・横浜で行われる突然の市長選。その戦いは、街頭だけではない。スマートフォンの画面の中でも、すでに始まりつつある。



高野祐大

 
 
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